最初の体験
暗闇で長い時間、黒い凹面鏡を見つめていた。ほんのり鏡の丸い輪郭が闇に浮かび上がっている。毎日のように暗闇でボーッと鏡を見つめるのが私の日課になっていた。鏡は真っ黒で、ぽっかり開いた穴のように見える。これが楽しいというわけでもないのだが、嫌というわけでもなかった。なんとなくそうしていたかったのだ。私に幽体離脱を伝授してくれた本によれば、こうやって毎日鏡に向かって座っていると、やがてそこに鮮やかなヴィジョンが映し出されるというのだ。
昔の魔法使いたちは、このような鏡や水晶球をつかって霊視を行い、様々なヴィジョンと霊感を受けていたという。この事実は現代においては、むしろ忘れ去られているかに見える。水晶球占い師ですら、実際にはっきりと水晶球にイメージが映し出されるなどとは信じていなかったりするのだから(笑)。
すでに幽体離脱に成功していた私は、その事を信じてはいたが、だからといって電気仕掛けでも無いただの黒いガラスの凹面鏡に、どうやってヴィジョンが映るというのだろう・・・という疑問は払拭されたわけではなかった。
そして実際、そんな日々が一年続いたものの、結局なにも見えなかった。それでもただなんとなく、そのボーッとする時間が好きでそれを続けていたのだ。そして二年目になった。ある日、同じように鏡を見つめていたらそれはやってきた。
頭の中でそれまで閉じていた回路に電流が流れる感じ。
パチパチというショートするような音が頭の中でして、そのあときなくさい臭いまでして、鏡がフラッシュを始めた。白と黒にビカビカと素速く明滅するのだ。
次にテレビのノイズ画像のような砂嵐がザーと映る。
それが徐々に消えてゆき、そのあとでぶわっと星々が出現したかとおもうと、サーーーッと流れていった。渦巻き銀河や球状星団が無数に流れていく光景が展開された。
いつまでもいつまでも流れていくので、じゃあいっぺん鏡から目を離したどうなるんだろと思って目を部屋の別の場所に移して、それからもう一度鏡をみると、まだちゃんとその映像が続いているのだった。
この鏡、電気仕掛けにしたおぼえないぞっ!?
ずいぶん長い時間がかかったが、この能力もマグレではなかった。それから同じように暗闇で鏡を前に瞑想していると、あざやかなヴィジョンが映るようになった。
多くの場合、そのヴィジョンは総天然色フルカラーで、しかも立体映像だった。ものすごくきれいなホログラムを見ているような気分。これが霊視というかどうかは微妙な感じがしたが、それでもそこに客観的な映像が投影されるのは驚異だった。
さらに長い年月がたった。私は今でもこれをつづけている。鮮やかなヴィジョンはよく見える。どこから知らない国や街の光景とか。見た事もないスチームパンク風の機械。動植物。幾何学模様や幾何学立体が次々とモーフィングする光景などがよく見える。ルーン文字のような古代語が浮き上がる事もある。
それからあまり多くはないのだが、確かに霊感が来る事がある。電波というかお告げなのだが。それは自分にとって本当に重要な局面でしかやってこないのだが、そのお告げははずれたことがない。
2003/07/09