プロローグ

魔法修行・魔法入門・オカルト入門

 中学生のとき、タロットカードを初めて手にした。そしてタロット占いの本を読んでいくうちに、「魔術」というものをマジでやっていた人々がいるという事を知った。しかし当時、魔術に関する本はほとんど皆無だったし、それ以上調べてみようともしなかった。カバラの生命の樹の図形に、なんか引きつけるものを感じた。漠然と。

 それから時がたち、私は21になった。このころ、国書刊行会から世界魔法大全なんて全集が出版されはじめていた。魔術への興味がもともとあったので読んでみた。クロウリーの「魔術・理論と実践」とかだ。けれどやっぱりよくわからなかった。(わかるほうがどうかしてるとも思うけど)でも魔術というのは面白そうに思えた。

 今度はほかにも本を探してみた。このときW.Eバトラーの「魔法修行」という本を手に入れた。しかし一度読んでもやっぱりよく分からなかった。私は無精な人だったので、その本は本棚にしまわれる事もなく、半年ばかり机の下にころがって、本当にほこりをかぶったままになっていた。

 秋ぐちになったころ、私はその本を再び目にした。ホコリをはらいおとし、またパラパラと読み始めた。今度はもう少し、理解することができた。そしてこの本は実践しながら読む本なのだと分かった。私はなんでも試してみるのが好きだったので、最初から取り組んでみることにしたのだ。

 この本には「幽体離脱」とは書かれていないのだが、それを意図的に行う技法がかかれている。

この本によれば・・・

「イメージによって精妙な物質でできたアストラルボディを作り上げ、その体に自分の意識を投射することでその体に乗り移り、自分の肉体を離れてアストラル界を旅できる」。

ということが書かれていた。
今から思うと、「よくそんな事を真に受けられましたね」と思うのだけど、若かったので信じやすかったのかもしれない(笑)。けれど幸か不幸か、私にとってそれはウソとはならなかった。
 この術をアストラルプロジェクションという。私はこれにとても興味をもった。書かれていることを忠実に実践していったが、なかなかその術は成功しなかった。それに当時の私は自分自身でどうしてこういう事に興味を覚え、人から見たらちょっと頭がおかしい人とも見られかねない魔術の実践をしているのか、よくわかってもいなかった。ただなんとなく面白そうだっただけ。彼女もいなかったし、退屈だったのかもしれない。

 行を続けているうちに、幽体離脱まではいかないにしても、色々と兆候はあらわれてきた。ウトウトしているとき、青く光るオーラが見えたり、悪夢にうなされたり、寝ている間に呼吸が止まって苦しくなって目がさめたり、自分の体がふわふわと波うつようにゆれたりするような感覚が生じたりした。これははっきりいって不快なこと。幽体離脱の実践をすると、「もしかしたら死ぬんじゃないか」という恐怖が頭をもたげてくる。なにぶん初めての事なので、成功しそうに思えても、それが本当にそういう事の兆しなのか判断するすべもない。そばで教えてくれる先達もいない。恐くなって術の実践を途中で中断したことは何度もあった。なにか、えたいのしれない特殊な変化が、自分の身に起きはじめた事は、漠然とだけど感じていた。

 年があけても幽体離脱は成功しなかった。しかしわずかながら生じた、自分の身に起きた変化に興味がわき実践を継続した。寒さもゆるみ、だいぶ春めいてきた日の朝の事だ。私は寝ていたのだが、部屋の中に立って、ぼ〜っと部屋の光景を見ている自分に気がついた。いつもの自分の部屋だ。でもなんか空間がゆがんでみえる。おかしいな〜と思っていたら、いきなり腰の力がぬけるように、ふにゃふにゃとその場に倒れてしまった。そこで自分が寝ていた事に気がついたのだ。
 これは夢かもしれないと思ったのだが、とてもヘンな印象があった。「もしやこれがアストラルプロジェクションというものかな?」と考えてもみたが、どうも夢のようではっきりしない。ねぼけて起きあがってつっ立っていたのだろうか。それにしてはふとんはちゃんとからだにかかっていて乱れた様子はない。

 次の日、私は昨日と同じ時間に起きて、アストラルプロジェクションの術を試してみた。つまり再び半眠状態に身を起きつつ、幽体離脱のメソードを試みたのだ。ものすごい耳鳴りがした。体が振動するような感覚があった。しかしやがてそれはパタリと消えた。と同時に私は自分の肉体から遊離しスルッと勢いよく肉体の外に飛び出した。昨日部屋の中で自意識を保ちながらつったっていたのと同じ感覚があった。つまり肉体から離れて、自らをとりまく世界を見ているという感覚だ。私は自分が意図的に幽体離脱に成功したことをはっきりと確信した。

 その日からしばらくの間、私はこの超越的能力を獲得した事が嬉しくて、毎日うきうきしながら過ごした。獲得した能力は決してマグレではなかった。毎日のように私は肉体を離れて、はじめて知ったアストラル界の探検に出かけた。やがて空を飛べる事にも気がついた。コツが必要だが、うまく意識をコントロールすると空も飛べるのだ。空高くから小さくなった町の屋根を眺めながら、私はすいすいと飛行した。壁だってすりぬけることができた。

 私はものすごく面白い遊びを手に入れた。やがて色々な生き物がその世界には住んでいることが分かった。そしてその世界にも人間とおなじような人々がいる事もわかった。アストラル界に咲き乱れる花は、地上で見る花よりもはるかに美しくて、ものすごく生命力が溢れていて、鮮やかなオーラを発散していた。
私の前にはまったく未知の世界と可能性が開けてきたように感じた。普通の人には知る事ができない誰もしらない新天地。こうして暖かい春分の日にすべては始まった。

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