1990年

帰還後に指を間違えて入れてしまう 2月15日

夜中に目がさめ、そのままウトウトした状態を繰り返していた。離脱を試みると簡単に肉体からはずれた。部屋から出ていこうとしたが、窓も玄関のドアも閉まっていて、開ける事ができない。しょうがないので壁抜け術を使って部屋の外に出た。外にでると見た事もない町並みに変わってしまっている。道路わきにたっている木々は、みんな葉を落としていて寂しい景色。とはいえ、ごくありふれた都会の町並み。いつのまにやら自分は自転車にのって移動している。すると目の前に非常に急な坂道が現れた。そのまま自転車で上がっていった。ほんのわずかだがペダルが重くなったような気がするが、実際の自転車こぎよりずっと楽。道には人も歩いているし、車も走っている。自転車ごと道ゆく人々に体当たりしてみたが、みんな影でできているように、するっとすり抜けてしまう。向こうから自家用車が走ってきたので、正面からつっこんでみる。こんどはガシャンという音がして、私はふっとばされてしまった。痛くは無かった。宙を舞う瞬間、自動車を運転していたおばさんの顔がひきつってるのが見えた。自転車はぐしゃぐしゃになって、自動車はそれを引きずりながら走りつづけていた。

ここで引き戻されてしまったのだが、肉体に戻るとき右手人差し指が、肉体の指にうまくはまらない。手袋に間違えて指を入れてしまったように、人差し指が中指に重なっているかのように感じて具合がわるい。しかしここで完全に目が覚めてしまった。指が変な感じにずれている感覚はそのまま。指を動かす事はでき生活に支障はなかったのだが、一日中そんな感覚が続いた。一晩寝たら元にもどっていた。

一日中幽体と肉体がずれてしまうというのは、数は少ないのだが何度か経験がある。例外的に3日くらいかかった事もあったが、たいがいは一日寝れば治ってしまう。「睡眠中はみな幽体離脱していて、その記憶が無いだけなのだ」とオカルトではよく言われる事なのだが、眠る事によって離脱し再び肉体に入り直す際に、ずれは修正されるのかもしれない。

素っ気ない出会い 2月20日

このところ妙に簡単に離脱する。耳鳴りも金縛りも無縁だ。一回目に離脱の感覚が起きたとき、部屋のベランダまでしか離れる事ができなかった。一度引き戻されたが、その場で再び肉体から離れ、さらに二段離脱する。窓から出てそのあと瞬間移動した。大きなビルがあって二つのビルに挟まれた細い道に出た。その道を歩いていくと、国道のように広い道に出た。するとちょうどそこに日傘をさした婦人と子供が通りかかった。二人とも白いワンピースを着ている。私は「こんにちは」と声をかけると、婦人も「こんにちは」と挨拶した。子供のほうをみると、右目のまわりに青黒い汚いアザがあった。婦人は先を急ぐかのように、そのまま歩いていってしまい、子供もそれについていった。振り返って彼女たちの背中をみると、子供背中には小さな天使の翼が顔をのぞかせていた。ちょっと驚いたが、そこで肉体にひっぱり戻されてしまった。

私はなぜか幽界に行くとしばしば「おばさん」に出会う。このご婦人に出会った事も一度や二度ではないのだが、いつもおばさんはそっけない。話は続かない。

幽体は電気を感じるのか? 3月14日

肉体から離れて自分の部屋に立った。視界はスリガラスのように曇っていた。手先足先を見ると、ちゃんとそれはあるのだが、先のほうは豆腐が崩れるように動かすと消えてしまう。しかしすぐに再生する。面白いので手を激しく振ってみた。すると五本の指先がちぎれて(両手でやったから10本)宙を舞い、放物線を描いて落下してゆく。そして空間に溶けるように消えてしまう。しかしすぐに幽体の指は再生する。数回繰り返してみたが結果は同じだった。

さて次はなにをするかな・・・と考えていると、背後で低いブーンという音が聞こえてくるのに気がついた。振り返ってみると、コンセントがある。実際の部屋にも同じ位置にコンセントがある。壁にもたれかかると背中に電流のようなビリビリした刺激が来る。背中を離すとその刺激は消える。

コンセントは足下にあるが、屋内配線ではそのコンセントの背後には壁にそって垂直に走るケーブルがあるはず。幽体は電気の流れを感じる事ができるらしいとこの時思った。

部屋には新しく大きな鏡を用意し置いていたのだが、幽界の部屋にその鏡は無かった。調達したてのほやほやのアイテムは、幽界にはまだ存在しないのだろうか。

筑波に瞬間移動 7月12日

夜の10時頃からうとうとしていた。薄明かりはつけていた。そのとき自分の部屋にねっころがっている夢を見た。そこでジジジーというノイズの音が聞こえ、そのとき幽体離脱が起きるとともに、自意識を取り戻した。同時に視界がブラックアウトして見えなくなる。手探りで肉体から遠ざかり、部屋の窓から飛び出したところで視界が働きはじめた。

早朝のような薄青い光に照らされた町の光景が見える。「ああ、これがいわゆるアストラル・ライトの青い光ってやつね」と納得する。このときなぜか筑波山に行きたいと思った。昔、万博があったときに行ったのを思い出したので。すると万博会場の入口のようなゲートが向こうに見えた(この時点でもうそんなものはなくなっていると思うが)。 そこに向かって歩いていくと、だんだん身体が浮き始めた。飛行機が離陸するような感じ。「あっ、そうか歩かなくても飛べるんだったね」と思って、さらに上昇をかける。身体がふわっと浮く、ああ幸せ!などと思いながら飛行を続ける。

スピードがあまりでなかったのだけど、視界には樹木がたくさんはえている林があって、公園も広がっている。木々の間をぶつかりそうになりながら、びゅんびゅん飛んでいった。だんだんスピードも出てくる。視界がどんどん流れてゆく。空には少し雲があって、太陽が隠れたりのぞいたりして、そのたびに光がふりそそいだり、隠れたりして、地面の芝生や木々が刻々と色彩を変える美しさに見とれながら飛び続けた。木々の緑は金色の光に照らされ目にはえるように美しい。

空を飛んでいたとき、ふと気がつくと両肩に人のような気配がする。そこに姿は見えないのだけど、何者かが両肩をつかんで運ばれているような、そういう感覚が肩にあった。首を左右にふって、なにがいるのか確認しようとしたが、姿を見つける事はできなかった。気配だけはあって、二人いるようなのだが。突然、視界が消えて、肉体に引き戻された。心臓がドキドキしてる。

タットワ行法を幽界で行うが 8月21日

タットワの図形に意識を集中し、幻視を行うという行法がある。図形を視覚化してそのイメージを拡大し、その中に入り込むという方法。非常に特殊な幻視体験が起きると言われるのだが、普通にやったのでは、せいぜいイメージ遊びをする程度のもので終わってしまう。それでこれに挑戦していたとき、幽界でそれをやってみたらどうかと三分研のメンバーの一人に言われ、それは一理あると思ったので試してみた。部屋の壁には一メートル四方の黒い紙に、月の形をした図形を銀紙で切り抜いたものを張っておいた。これは「水」のタットワ、アパスと呼ばれるシンボル。

そのあとで幽体離脱に入る。顎に集中する方法はなぜかうまくいく。意識のレベルが下がってきたときに(眠りに落ちかけ寸前に)それをすると振動が始まり離脱できる。だが今回は浮力が弱く自分ではい出す事になった。最初はなかなか視力が働かず、壁に貼ってあるシンボルを見る事すらできなかった。しかしやがては視力が働きだして、その図形が目に映った。その図形に触れると表面に波紋が広がる。まるでそこに月が映った水になっているかのようだ。「これなら中に入る事ができるぞ」。私はそう思い、その図形めがけて頭からつっこんでいった。「ゴチッ」と音がして、おもいっきり壁に頭をぶつけた。一見飛び込めそうなものだったが、実際には飛び込む事ができなかった。「あれっ、おっかしいなあ」と思ってもう一度図形を見ると、ただの紙で作った図形に変わっている。 今度は頭を図形に押しつけてグリグリやってみたが、所詮はただの図形。中に入る事などできやしない。

そうこうしてるうちに、引き戻す力がやってきた。「まだまだ」と思った私は、必死に抵抗して壁に貼り付けてある紙に手をかけて、引き戻されまいとした。しかし紙は紙。「ビリビリ」っと破ける音がして、そのまま紙を引き裂いてしまい、引っぱる力にまけて私は肉体に戻されてしまった。肉体に戻って、まだ視力が幽体側にあるとき、破れた紙の断片が宙に舞っているのをながめて「だめだぁ、こりゃあ!」と思った。

肉体に戻り、壁に貼っている図形を見たが、破れてはいなかった。

タットワやパスワーキングで一般に使われる、イメージを視覚化しそれをドアのサイズに拡大して、その中に入り込むという方法は、イメージ操作を通じて行われる儀式のようなものであり、実際の幽界においてそれを行ったとしても、それがより超常的にリアルな体験になるわけではないらしい。

月の図書館 9月3日

図形の中に入るという方法は、体脱時のメソードとしてはうまくいかないらしい。心のどこかでそういう事ができるわけがないと思っている自分がいるからだと思う。そこで別のやり方を考えてみた。たとえばいつも出て行く玄関や窓に、なんらかのシンボルを描いて、それからドアを開けるという方法ならどうだろうか。

いつものように離脱して、玄関まで手探りで移動したのち、視力が働くのを待った。やがて周囲の光景が見えてきたので、ホワイトボード用の水性マジックペンを探した。 (玄関はキッチンにあり、キッチンにはメモ用にホワイトボードが置いてある)。ペンを見つけたので、玄関のドアに大きく占星術の月のシンボルを描いた。「このドアの向こうは月だったな」と、さもそれが常識で当たり前だというように自分をだまくらかすよう自己暗示をかけてドアを開けた。

昼間に離脱したにもかかわらず、ドアの向こうは夜だった。雲も出ていないが、星も見えなかった。だだっぴろい平地というか、岩塩のような平地が広がっていた。草木一本はえていない。遠くに険しい峰が連なっている。太陽のような光源があるわけでもないのだが、地面はかなり明るい。ありえない風景を3DCGでリアル描かいたものを見ている感じだ。ドアをくぐると目の前には石畳でできた道路が続いている。道路は枝分かれしたり、交差して何本も走っており、それらは平地のあちこちに建っている石造りの建造物につながっている。ちょうどギリシアの神殿のような建物だ。

人影はまったく無く静まりかえっている。石畳の上を歩いていくと、やがて大きな水盤のある交差点に出た。直径二メートルぐらいの大きな皿に水が湧いていて、皿の端から水は下に流れ落ちていく仕組みになっている。水盤をのぞき込むと、自分の姿がなぜかタロットの女司祭のような格好で映る。自分は女性になっている。自分の姿は背広姿だったが、水盤をのぞき込むと知らない女性の姿が映る。それで自分が口を開けたり片目を閉じれば、水盤の女性も口を開けたり片目を閉じるのだった。奇妙な水盤だったりする。

でもこんな水盤に見とれていてもしょうがない。十字路にいるので、どの方向に歩いていこうか考え、結局そのまままっすぐ行く事に決めた。向こうには円柱形の塔がある。右手にいけば神殿らしい。左はどこまでも道がのびていた。塔の中に入ると、そこは巨大な図書館だった。円筒形の壁面がすべて書架になっており、何十万冊もの古い古い本が収められている。どの本もみな同じ大きさ同じ装丁で、巨大なファイル書庫のように見える。天井は吹き抜けになっていて、何十階も書架が並んでいる。

書架から一冊無作為に取り出して、どんな事が書かれているのか読んでみようとした。そのとき背後で犬の唸り声を聞いた。振り向くとシベリアンハスキーの犬がいて、薄暗い暗闇の中で青緑の目が輝いている。ガウッと吠えると、そのまま犬は突進してくる。私は本をその場に落として、飛び上がって逃げた。そのまま塔の上に向けて上昇していったのだが、どこまでも同じような書庫が続く。五階ぐらいだろうか、再び書庫に近寄って一冊引き抜いた。するとまたあの犬がそばで吠えて飛びかかってくる。本を抱きかかえて、近くにあった窓を蹴破って外に飛び出し、自分の部屋に戻りたいと念じた。

部屋に戻ってきたとき、私は一冊の本を抱えていた。あの図書館からなんとか一冊盗み出すのに成功した。どんな事が書かれているのか、おそるおそる開いてみると、歯車やカムやメーターやダイヤルやスイッチが複雑に組み合わされた機械の絵が描かれている。いや絵ではなく、その本は確かになにかの機械らしい。その絵は動いていた。メカニカルの接点がオン・オフを繰り返していたり、信号の流れが複雑な回路を駆けめぐっているのが目で追える。次のページをめくると、また別の複雑な機械が動いていて、次のページになにかの信号を送りだしている。モザイク状に黒と白の升目が無数に書かれているページがあって、それは刻々と模様が変化していく。「なんじゃこりゃあ??」と見ていると、またあの犬のうなり声が聞こえた。ふとみるとハスキー犬がいる。私は本をその犬に投げつけ、肉体に逃げ帰った。

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