1988年

助言をくれる男の声 2月10日

今日から五連休。午前11時ごろ、まだうとうとしていた。幽体離脱をしてみようと、姿勢を正して試みると、すぐに肉体から抜け出した。すぐに肉体から遠ざかり、ベランダに出た。それでも肉体が強力に引き戻そうとするので、そのままだとすぐに引っぱりもどされそうになる。姿勢を保っておくことができず、強力なゴム紐に引きずられそうになる。
しょうがないので、ベランダの手すりにつかまって身体をささえた。視力は働いたり、働かなくなったりして不安定。耳元で男の声がして、「もっとゆっくりと」「おちついて」と、まるでアドバイスでもしてくれるような声がする。このとき自分はまるで女性になったような気分がしていて、その助言に「はい」とすなおに答えながら、そのように振る舞う。しかしその努力もむなしく、あまりに強い吸引力に肉体に引き戻されてしまった。 肉体に戻る時、幽体が肉体にお行儀よく収まるのが分かった。合体したところで目を開けた。もっと遠くまで距離をとったほうが良かったと思った。助言者はありがたいが、さりとてあまり有効な助言というわけでもないらしい。

役にたたない助言 2月24日

ふとんに入って30分ほどで幽体が抜け出した。引き戻されそうなのでとにかく肉体から離れる事をめざす。強い力にあらがいながら一歩一歩離れて行く。目が見えないので手探りで壁にそって先に進んだ。しばらくすると壁がなくなった。するとと突然視力が働きだした。すでに家の外に出ていて、なぜか地面には肉体から何メートル離れたかを示す数字が、白い文字で書かれている。このとき下を向いてあるいていたのだが、80メートルくらい離れて、次に100メートルの表記が目に入った。

ふと目をあげてまわりをみると、山々がつらなり、畑や田んぼがたくさんある。どこかの田舎の風景だが、それがどこなのかはわからない。しかし電柱や電線があったり、道路が舗装されていたりして、けっこう開けた場所のようにも見える。近代的な住宅も目に入る。それから離脱直後からひっきりなしに、あれこれと助言する男の声が響いている。早口でまくしたてるようにしゃべる。「ほら、もうちょっとだ。がんばれ。先に進む事だけを考えろ。肉体の事は考えるな。あっ、そこはあぶない。見るな。ああだこうだ・・・」。しかしなんかこのアドバイスは自分にとってリアリティがなく、助言の主の姿はどこにもみあたらないのでほったらかしにしておいた。

さらに進むととてもきれいな桜並木が続いていて、そのトンネルをフワフワ飛んでくぐりぬけていった。すると正面から知らない婦人が子供づれで歩いてきた。白いワンピースを着て日傘をさしていた。子供も同様に白いワンピースを着ていて黒い髪だった。二人はこっちに気づいて目をむけたが婦人はそのまま先をいそいでいるらしかった。女の子は婦人の背後にかくれて、こっの様子をじっとうかがっていたが、そのまま婦人についていった。後ろからみると女の子の背中に小さな天使の翼が顔をのぞかせていた。

ここで引き戻されてしまった。

バトラーに会いにいこうとするが 3月5日

朝6時半ごろ試みた。頭の方向に幽体が浮かび上がった。いつもの引き戻す力が無く、妙に身軽に動ける。宙に浮いた状態でバトラーに会ってみたいと思い思考を集中させる。宙に浮いていた身体の向きが変わり、「こっちの方向!」という直観が来た。移動が始まり、どんどん加速してゆく。どんどん景色が流れていって、いつになく高速で移動することができる。最初は町の上をぶっ飛んでいて建物の屋根が小さく眼下に見えている。

やがて海に出た。それでもさらに飛び続けていたのだが、飛ぼうという意志を続けないとすぐに速度が落ちてしまう。どんどん岸辺から遠ざかり、目の前は遠くに見える水平線だけ。海の上では水面から1メートルくらいの超低空飛行で、高度をかせごうとしたができなかった。かなりの速度で飛び続けた。風を切る感覚も感じていた。「この方向でほんとにイギリスまで行けるのかね?」とか、「いくらこのスピードで飛んでも遠すぎるのでは?」という疑問が頭によぎった。それに正面には水平線が広がるばかりで、島一つ見えない。飛んでも飛んでもきりがない。海の上なんだし当たり前か。「いったいどこまで来たんだろう?」そうおもったとたん、急に飛行は停止。ブレーキのかかる反動のようなものはない。後を振り返ると、はるかかなたに島があるのがわかる。つまり日本ということなんだろうが・・・。下を見ると、緑がかった海が足下にあり、波がたぷたぷしている。「あれだけ飛んだと思ってもこの程度か」とちょっと絶望的な気分になる。ここで視界がぼやけて、肉体には一瞬で戻ってしまった。結局目的は達成されなかった。

屋根から落ちる 3月28日

朝8時ごろからはじめたがなかなかうまく行かなかった。気がつくと9時。それでもさらに続けるとすぐに抜け出す兆候がやってきた。引き戻そうとする力が強く働いていたが、心の中で「遠くへ、遠くへ、引き戻されたくない」と念じると、幾分その力が弱くなる。目が見えない状態で、手探りで肉体から数メートル離れ、自分が家のベランダに出た事がわかる。それでもまだ目が見えないので、さらに屋根の上を歩いて遠ざかっていく。とうとう屋根のへりから足を踏み外して落ちてしまった。空を見あげるような姿勢で落ちたのだが、このときから急に視力が働き始めた。落下は風船が落ちるくらいのゆっくりしたものだったが、落ちていく感覚がはっきりとある。地面に落ちたとき、そこには古い瓦が積んである場所だったのだが、それの何枚かががちゃんと割れる音がする。身体に痛みはなく、ケガはしなかった(当たり前だが)。

家の裏の通路にいることがわかったので、そのまま表通りまで歩いていった。通りにはおばちゃんたちが三人いて世間話をしている。子供がドッチボールで遊ぶ姿も見える。見慣れた光景。ボールが自分のほうに転がってきたので、投げ返してやる。
町はふだんの様子とまったく変わった様子がないが、実際のそれとはわずかに違っている。今はない古い建物が残っていたり、あるいは見た事のない真新しい家が建っていたりする。自分の住んでいる家は、いつもと変わりがない。

近所の友人宅まで歩いて行き、玄関の前で呼び鈴を押す。この家の呼び鈴はブザーのはずなのだが、「ピンポーン」という音がする。しばらく待つが返事がない。しばらくすると二階の窓から友人が顔を出したので、私は宙に浮きあがり二階の窓から彼の部屋の中に入った。すると「おまえ、なにしてんねん」と少々驚いたようす。それで、「かくがくしかじかで幽体離脱で尋ねて来たんだよ」というのだがなかなか信用しない。今の状況では普段と同様、区別が付かない(宙を飛んだはずなんだが)ので、無理も無いと思っている。あれこれと世間話をしているうちに、引き戻されてしまった。

肉体に戻ってからすぐに、友人の家を尋ねたが留守だった。後から事情を話して、なにか変わった事はなかったか聞いてみたが、まったく覚えはないという事だった。

原初の地球? 11月8日

いつになく簡単に離脱することができたが、視力がいつまでたっても働かない。体がなにかにひっぱられるように、どこかに移動する感覚があった。真っ暗な中でぐるぐる回転しながらどこかに進んでいる。やっと視界がぼんやり見えてきたが、どうやら真っ暗な世界らしい。しばらくすると目が慣れてきて、景観がわかるようになった。私は丘の上にたっていたが、地面をみると火山岩の砂利でできた土地が広がっている。周囲を見渡すと、荒涼とした大地で、草一本、樹木一本見あたらない。はるかかなたの遠くの山に赤い火柱ののようなものがあがっているのが見える。たぶん火山だろう。自分が立っている丘のふもとには、広大な海が広がっているが、波がたっていない。鏡のように澄んでいる。一体ここはどこだろうと思う。空を見上げるとかすかに明るさはあって、分厚い雲が空を覆っている。まるで生命がまた誕生していない原初の地球の光景かと思った。音もなく風もなかった。

そのとき空の雲が割れた。すると一つ、また一つと、とても大きな星が輝きはじめた。どうみても普通の点のような星とは違う、かなり大きな星だ。全部で七つの大きな星が輝き、そこからレーザー光線のように伸びる光輝が海に落ちた。混沌とした世界に星の光が落ちてくる光景は、ぞっとするほど美しかった。そのときわかったのだが、実はこの原初の地球のような世界はドームで包まれていたのだ。ドームの屋根が開き星の光が入ってきたのだった。ここでいきなり引き戻された。

HOME